細雪 解説
ねこ助の息抜きブログ

細雪 解説

今回は、谷崎潤一郎氏の作品「細雪」について感想・解説を書きました。「細雪」を読んだ方、新しい見方もあると思うので、良かったら見ていって下さい。


細雪 花見

失われる伝統文化



桜や庭の植物、さらには艶やかな着物といった描写が印象的で、四姉妹の華やかな生活が色鮮やかに伝わってくる作品でした。

しかし,そういった明るい印象とは別に淋しさを感じる事が度々ありました。この作品の何に対して寂寥感を感じるのでしょう。

それは本編中の出来事である「大切な人との別れ、そして失われる従来の生活」に対してです。著者の谷崎潤一郎氏が「細雪」を書いた動機は、失われゆく上方の関西文化を偲んでとされます。

この作品では蒔岡家の四姉妹に上方関西文化の喪失が重ねられています。鶴子一家が東京に移転してから彼女達の生活様式や生活に関する考え方が大きく変わり、さらに終盤にて雪子、妙子が結婚のため蘆屋から離れます。この様に「細雪」では四姉妹全員が今までの生活を続けることが出来ない、という生活の変化が描かれています。

またこの作品では姉妹の生活に移りゆく日本文化の結び付けが度々なされています。例えば、鶴子の東京移転に対しては東京で暮らすハイカラな主婦の存在、妙子の舞の披露に対しては衰退しつつある山村舞、という様に物語が構成されています。

著者は蒔岡家の四姉妹を上方関西文化の象徴として描くことで、読者に上方関西文化の喪失について寂寥感を抱かせるように作品をまとめ上げています。


著者の願い



元々、谷崎氏の得意とした女性像は「痴人の愛」のナオミに代表される,奔放な女性です。「細雪」では妙子がその様な人物像としてよく当てはまります。

しかし本作品では性格の対照的な雪子に描写の重きが置かれています。雪子は大人しく慎ましやか、箱入り娘の言葉が似合う性格の持ち主です。また洋服よりも和服が似合い、京美人であった亡き母親の面影を最も色濃く受け継ぐという、外見においても徹底的に「純日本娘」という設定がなされています。

さらには自分の子でなくとも幸子、鶴子の子供の面倒をよく見る等、結婚せずとも「よき母親」像を読者に抱かせる様に描写されています。谷崎氏が伝統的な日本文化への憧憬を女性像として投影させたのが雪子であるといえましょう。

本作では四姉妹を描くことで、関西上方文化の失われゆく様を表現しています。しかし物語の結末では結局の所、雪子の嫁ぎ先は元華族の人間であり、従来の生活の崩壊を決定付けるには至っていません。

また大阪に留まる幸子一家、さらには東京へ移住した鶴子においてものんびりとした元来の性格は変じていない事等から「変容しつつも変わりきらない日本文化」という作者の願いが「失われゆく伝統文化」というテーマの中に込められている様に感じました。