ダンス・ダンス・ダンス 解説(前編)
ねこ助の息抜きブログ

ダンス・ダンス・ダンス 解説(前編)



今回は村上春樹さんの名著「ダンス・ダンス・ダンス」を紹介します。長文となったので、前後編の二投稿とします。あくまで私見のため、異説として読んで下さい。



-Contents-
・なぜ4部作なのか
・ダンス・ダンス・ダンスにおける社会批判
・ダンス・ダンス・ダンスのテーマは何か(後編)
・「僕」は幸せになれるのか(後編)
・五反田君の存在意義(後編)



なぜ4部作なのか


この本は1988年に発表された、同氏の初期作品です。デビュー作「風の歌を聴け」、「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」、そして「ダンス・ダンス・ダンス」まで同じ主人公を描いた一つのシリーズとなっています。つまり四部作です。

前2冊は文字数が少なく、後に続く「羊をめぐる冒険」、「ダンス・ダンス・ダンス」のための前日譚的な意義もあるように感じます。なぜ作者は「風の歌を聴け」と「1973年のピンボール」を一つの作品として扱わなかったのでしょう。それは1作1作のうちに描きたいテーマが違ったためだと考えられます。

全4部作のシリーズでは、主人公の年齢の推移と共に作品のテーマに変化が見られます。端的に表すならば、「風の歌を聴け」では青春の回顧、「1973年のピンボール」では青春時代との離別が主として描かれました。「羊をめぐる冒険」では鼠、妻、キキといった人物との別れ、「喪失」がテーマとして描かれています。そして本作「ダンス・ダンス・ダンス」ではその後の34歳となった「僕」が描かれています。

ダンス・ダンス・ダンス 解説



ダンス・ダンス・ダンスにおける社会批判


本書はいるかホテルに住む羊男や多くの超常現象から、都市部を舞台にしながらもどこか幻想的な印象を受ける作品です。 34歳となった彼は社会に対して「時代が変わったのだ」と諦観を示す様になっています。

1970年代の価値観を引きずる「僕」は現在の社会(1980年代当時)に対して否定的です.例えば「僕」の社会に対する考えは、音楽の好みに表れています。「僕」は1980年代の代表的音楽を大量消費音楽とまで言い切るのに対し、1970年のローリング・ストーンズの曲には素敵な曲だと微笑みを浮かべています。本作品では直接的、あるいは時代を象徴するものを引き合いに社会批判が度々なされています。

では1970年代に比べて現在社会はどの様に変化したのでしょう。本作の登場人物である牧村拓は1970年代には何が正義なのか、そして自分の行っている事がどの様な意義を持っているのか鮮明だった。今では何が正義なのか誰にも分からない。そのため皆が目の前にあることを(意義や正当性を判じることなく)こなしているだけなのだ、と語っています。

複雑化する社会システムが原因で、世の中の事物に善悪を見出せなくなったのが1980年代なのです。本作品ではいるかホテル立ち退きの全容、そして高級コールガール組織の実態とメイ殺害の犯人といった不条理な事柄が解明されないままとなっています。これは著者が複雑化した、底知れない社会の不気味さを表現しているのではないかと思われます。